「日本の製造業は終わっている」という議論を時々聞く。OXYGYは「製造業」、「サービス業」という区分そのものがもう意味をなさなくなっているのが現状だと考えている。企業内やメディアでよく聞く、「モノづくり日本」という議論そのものを終わらせる時が来た。
日本の製造業には勝ち筋がある。ただし、その勝ち筋を実現するためにはこれまで培って来た価値観を転換し、企業内の仕組みと働き方を変えることが必要だ。そのために、「モノづくり日本」にこだわるのではなく、今後を見据えた変革の第一歩をどうやって踏み出すかを考える必要がある。そのための考え方と道筋のヒントを共有したい。
これは日本という地域・文化に偏重したものではない。世界中の企業が、自分たちの存在の証明をするために行っている、業界や国に関わらない普遍的なものだ。
例えば、グローバル医薬品メーカーのビジネスモデルについて提言したOXYGYディレクターのギュンター・クローチェックの論考は、日本にも等しく当てはめて考えることができる。業界に偏らず、勝ち残るための変革には定石があるという意味だ。
ギュンターは、欧米の医薬品製造販売業会について起こる変化をまとめて、以下のようなポイントを提示している:
- 大前提:医薬品製造販売業界における環境変化に対応するには、これまでの経営とは全く異なる発想や価値観が必要になる
- 結論:それはビジネスモデルの転換を意味する
- 結論:そのために企業は、組織・業務プロセスを再設計するだけでなく、人財や組織が持つ価値観や文化までも変革していく必要がある
「科学で効果・効能が証明された製品を世の中に出す」という価値観から、「個々の生活者・個人が必要とする価値を読み解いた価値提供を行う」ということにつきる。医薬品については、患者と同時に支払いをする立場の利害関係者(健保組合や国の財政、海外では保険会社)とその運営のための社会経済的基盤における状況も考えるということで、これは日本でもおなじみの議論となりつつある。
個別化医療(パーソナライズドメディスン)と呼ばれる考え方も、突拍子もないものではなく、「私のことを理解している」と思わせられる顧客へのアプローチが必要ということだ。これを実現しようとすると、経営の方法やオペレーションを180度転換しなければならない。
この価値観の転換はすべての製造業で、日本だけでなく世界中で起こっている。「良いものを安く造ることができれば、売れて会社も成長する。値段は製品毎のコストに利益を乗せて考える」という従来型の発想からは大転換だ。
この転換については「モノからコト」という表現によって、日本の大手企業トップがここ数年社内コミュニケーションでよくメッセージを発信してきた。だが、実現し得た企業はなかなか見当たらない。
一方でこの状況は、新規参入を狙う企業や、デジタル技術と顧客エンゲージメントの獲得に長けた企業にとっては一大機会の到来としてとらえることができる。新規業界への参入や、これまで阿吽の棲み分けができていたバリューチェーン上の事業領域の再定義をも可能にするからだ。
「自分たちはモノづくり企業だ」と思っている大手企業は、既存の資産が価値を持っている間に、その資産を上手く使って自社の変革に手を付け、成し遂げる必要がある、というのがOXYGYの主張だ。
その時、忘れてはならないのが「存在価値の再確認」だ。事業環境の変化で翻弄される企業は、ともすると生き残りが目的となってしまう。自分たちの顧客と、提供すべき価値を中心とした、自社の存在意義を再確認せずにむやみにデジタライゼーションや変革を議論するから、改革が頓挫する。改革の第一歩は、自社がこの世に存在することで提供できる価値や可能性の再確認だ。
変革を考える企業にとって、自分たちがその準備ができているかを確認してみてはどうだろうか。
ギュンターは、「勝ち残るための6つのポイント」という考え方を提唱している。このポイントを確認することは、既存のプレーヤーにとっても、新規参入するプレーヤーにとっても等しく有効だ。
勝ち残る(新しく参入する)ための6つのポイント:
- 価値による証明(Value Demonstration)ができるか
- 患者・関係者視点(Patient/Stakeholder Centricity)で意思決定しているか
- デジタルによるバリューチェーン創造(Digital Enables Value Creation)ができるか
- 他プレーヤーとパートナーリング(Collaboration and Partnership)して価値を産み出すことができているか
- イノベーションを産み出す文化(Innovation Culture)があるか
- 規制・法令遵守(Regulatory Compliance)が徹底されているか
これらのポイントは、医薬品業界だけでなくすべての業界で応用可能だ。そして、そもそも自社がモノづくり企業なのか、製造業なのかという領域についての前提はない。
自社のことを「自動車製造部品」メーカーと位置づけ、典型的な「モノづくり」視点で捉えている企業は、自社の価値をどのように再認識できるだろうか?その認識に沿って変革を進められるだろうか?
冒頭で述べたように、「モノづくり日本」という考え方そのものを終わらせ、提供できる顧客価値は何か、という問いについて議論すべき時が来たのだ。
あなたの会社は、それに向けて変革の準備ができているだろうか?ギュンターの提唱する変革(トランスフォーメーション)の6つのポイントを自己評価できる簡単な無料のアセスメントキット (ページ下部:How fit for the future are you?参照)がある。
1人で実施しても良いし、社内関係者数名と実施してみてもよい。少なくとも、変革するための課題という観点から、自社の状況について示唆が得られるだろう。
OXYGYはグローバル視点での全社変革・事業変革を実現するためのパートナーだ。また、昨今では、論考中にあるように異業界への新規参入を狙う企業、スタートアップの支援も行っている。
何をすべきか、その必要性自体を検討する段階から、私達OXYGYはクライアントと共に事業・組織における課題や目的を再発見し、新しい方向性を設計し、その実現まで伴走するというアプローチを取っている。ご連絡はこちら。
著者:太田信之
OXYGYパートナー、アジアパシフィック代表
20年を超えるコンサルティングキャリアの大半が、変革と価値の実現(イノベーションだけでなく、オペレーション、組織・リーダーシップ開発、エグゼクティブ・コーチングまでを含む)。経験を持つ業界は、ライフサイエンス、化学・素材、食品、マスメディア・エンターテイメント業界。